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鈴木 成一さん(TSUKUCOMM Vol.42)

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本に「存在のリアリティ」を与える

装丁家
鈴木成一デザイン室
鈴木 成一さん


書店に行けば様々な本が並んでいます。著者やタイトルを見て手に取ることが多いかもしれませんが、まず表紙に目を奪われるということも少なくありません。本にモノとしての個性を与えるのが「装丁」。電子書籍にはない力強さを生み出します。


-装丁家というのは、あまり知られていない職業だと思いますが、どういう仕事で、どのような経緯で始められたのですか。

なりたかったというよりは、ならされてしまったという感じですね。学生時代に先輩の手伝いで、鴻上尚史さん(劇作家?演出家)が早稲田大学で立ち上げたばかりの「第三舞台」という劇団の公演ポスターを作るようになりました。その流れで鴻上さんの第一戯曲集のデザインを頼まれたんです。在学四年の頃です。それが最初ですね。普通は戯曲集なんて注目されないものですが、鴻上さん自身が注目されたおかげで、多くの人に見てもらえて、装丁の依頼が来るようになりました。

装丁は、表紙の図柄だけでなく、本文の組み方にまで関わります。また表紙も、紙質や厚みから加工、印刷方法まで、その本の佇まいにふさわしいものを選ばなくてはなりません。本というのは不思議なもので、日常の中にありながら、実用性と装飾性の両面を兼ね備え、ひとつの個性として主張します。手にとって愛でるような、工芸品にも似た、モノとしての奥深さも持っています。装丁の魅力もそこにあると思います。

-学生時代から、ということですが、筑波大はそういう活動がしやすい環境だったのでしょうか。

学生の頃はデザインのバイトと授業の課題制作に明け暮れていました。グラフィックデザインというのは、とにかく紙に印刷しなくては作品になりません。当時はまだ、パソコンもプリンターもなくて、製版や写植など、印刷屋がする作業を全部自分でするわけですが、筑波大にはそのための機材、しかもかなり高価で大型のものまで揃っていて、ほぼ使い放題でした。その環境は本当に良かった。おかげで、印刷表現のあれこれをたくさん学びました。デザインに限らず美術の各分野を極めた先生もたくさんいて、とても刺激を受けました。

とはいえ、筑波大に進学するとは思ってもいなかったんです。高校では美術部の部長をやっていて、美術系の進路を希望していましたが、経済的に私立大は厳しいので、漠然と芸大を目指していました。高校当時の担任から推薦枠があると聞いて、初めて筑波大を知ったんです。だから行ってみてたまげました。田舎にもかかわらず巨大だし、近代的だし。本気でやってみようという気持ちになりました。

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-哲学書からタレント本まで、あらゆるジャンルを手がけていらっしゃいます。装丁で大切なことはなんでしょうか。

本を出版するというのは、どんなジャンルであれ、それが今、世に広めたいものだということです。書店で平積みになったときに単に目立たせようというのではなくて、その本がまさにこのタイミングで存在することの意味というか、リアリティを与えることです。それを目指して、イラスト?写真?文字などあらゆる素材を総動員します。ですから中身を読むことは必須です。子供の頃は読書は嫌いだったんですけどね。難解で、ちっとも理解できないこともありますが、そういう時は、一読者としての居直りにも近いアイデアがどういうワケか降ってきたりします(笑)。原稿が何百枚、長編小説によっては千枚を越えたりで、割りに合わないような気もしますが、これはもうこの仕事の宿命ですね。お陰様で休日のゲラ読みは欠かせません。

もちろん、なかなかビジョンが浮かばなかったり、踏ん切りがつかないこともあります。でも装丁はあくまでも仕事で、自分の作品としてこだわるべきではないと考えています。その線引きとなるのが締め切りであり、著者や編集者のリクエストであり、また内容そのもので、そこから求められるかたちが見えてきます。自ずと客観的な立ち位置になれるんです。長年やってきて、作家性を追求するより、与えられた企画の中で最善を作り出す方が、自分には向いていると感じています。

-これまでのキャリアを振り返って、後輩たちにどんなことを伝えたいですか。

先日数えてみたら、これまでに装丁した本が1万数千冊になっていました。もう30年以上になりますから、ほぼ1日に1冊の計算ですね。多い時には年間800冊も引き受けたでしょうか。今は、基本コンセプトの指示と最終的な意思決定は自分が行いますが、実作業は7人のスタッフが担当しています。常時、30冊ほどを並行して進めています。

実はこの仕事を始めて10年目ぐらいの頃、辞めようかと迷ったことがあります。目立たない仕事ですし、そのまま続けていていいのか、よくわからなくなったんです。ちょうど、大学の講師にならないかという話もあって。そんな時に講談社出版文化賞のブックデザイン賞をいただきました。それでやっと、デザイナーとしての自信と自覚を得た気がしました。

自分は何者か。いろいろな世界に触れ、地道に経験を積み、他者とのぶつかり合いの中で刺激を受けることで、自分のアイデンティティを獲得できるんだと思います。それはまさに、自分の中心に向かって掘っていく作業で、そうやって自分の生き方を削り出していくしかありません。そう実感できるようになったのはここ10年ぐらいのことです。若いうちはまだ何者でもない。知ったかぶりをせず、積極的に物事に挑みながら地力をつけてほしいです。

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PROFILE

1962年 北海道生まれ
1984年 狗万app足彩,狗万滚球芸術専門学群卒業
芸術研究科修士課程中退後、1985年よりフリーに。1992年(有)鈴木成一デザイン室設立。 1994年講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。エディトリアルデザインを主として現在に至る。「鈴木成一装画塾」講師。狗万app足彩,狗万滚球人間総合科学研究科非常勤講師。 著書に『装丁を語る。』『デザイン室』(いずれもイースト?プレス刊)、『デザインの手本』(グラフィック社)



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