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TSUKUBA FUTURE #021:古生物学者は名探偵~生命史の謎解きにあこがれて

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生命環境系 上松(あげまつ) 佐知子 准教授


 古生物学者の研究対象は、恐竜やアンモナイトだけではありません。化石には小さなもの(微化石)から大きなものまであります。上松さんの専門は、1個の大きさが0.2?0.5mmしかないコノドントと呼ばれる微化石です。聞きなれない名前ですが、カンブリア紀後期(約5億年前)から三畳紀末(2億100万年前)まで、3億年以上にわたって見つかる化石です。ロシアの古生物学者が1856年に命名しました。コノドントというのは「円錐形(コン)の歯をもつ(オドント)」という意味ですが、円錐形の化石だけでなく、ギザギザで奇妙な形をしたものまで形状は様々です。この「歯」の持ち主は世界中の海に広く生息していたらしく、昔は海の底だったあちこちの地層から、わりとたくさん見つかります。化石を含む石を酸で溶かすと、燐酸や珪酸でできた化石や鉱物だけが溶けずに残るのです。形状が特殊なので、同じ化石が見つかる地層どうしの年代を対応させることが可能です。


コノドントの電子顕微鏡写真。スケールバーは100μm(0.1mm)

コノドントの電子顕微鏡写真。スケールバーは100μm(0.1mm)



ハンマーは地質学者の必需品。これを数年で使い潰す。

ハンマーは地質学者の必需品。これを数年で使い潰す。


 上松さんは、日本における数少ないコノドント研究者の1人です。そもそもどうしてコノドントが専門の古生物学者になろうと思ったのでしょう。それにはいくつかの偶然が重なったといいます。1つは、入学した小学校の校章が化石だったこと。長野県下伊那郡阿南町にある富草小学校の校章は、サメの歯が徽章の中心に据えられていたのです(現在の校章は歯のギザギザが省略されています)。この地区は化石の産地として有名で、サメの歯やデスモスチルス(中新世の草食哺乳類)などの化石が産出し、阿南町化石館という展示施設もあります。化石が身近な土地で育った上松さんは、学校の図書館で衝撃的な出合いを体験しました。まんが学習シリーズの1冊で、化石の研究者を名探偵になぞらえた本に出合ったのです。「そうか、化石学者は探偵なんだ!」化石の研究者になろうと決意した瞬間だったそうです。


 狗万app足彩,狗万滚球の古生物学研究は東京教育大学時代からの伝統があり、近年は微化石を用いた地層の年代決定の研究(層序学)で定評を得ています。上松さんは、指導教官の指田教授から提案された研究テーマの中で、コノドントの研究に惹かれました。とにかく謎めいていることと、日本では研究者が少ないことが魅力でした。さる高名な古生物学者は、コノドントは「謎の中で神秘にくるまれた不可思議」の1つと形容しました。その最大の謎は「歯」しか見つかっていないことでした。コノドントが海生動物の「歯」であるにしても、それはどんな動物だったのか、皆目見当がついていなかったのです。謎の一端が解けたのは、コノドント命名から127年を経た1983年。スコットランドで見つかっていた石炭紀の化石を含む岩石(およそ3億4000万年前)から、コノドントの「歯」をもつ細長い動物が見つかったのです。それは、ウナギのような体で、喉の奥の方に例の「歯」をもつ魚で、尾ひれもありました。しかしそれで一件落着だったわけではありません。たしかに魚の仲間であることはわかりましたが、3億年も存続したグループなのに、完全な化石はわずか1体。その化石を見ると、鱗も甲板もなく、体は軟らかそうです。これでは化石として残りにくいはずです。「歯」の並び方やその機能についても、謎がたくさんあります。


                   
コノドント本体の化石の写真について説明する上松さん。教育用シーラカンスのぬいぐるみやアンモナイトの化石の画像
机上にはシーラカンスのぬいぐるみやアンモナイトの化石(教育用)も。コノドント本体の化石の写真について説明する上松さん。



 コノドントの1個1個の「歯」はエレメントと呼ばれています。同じ石からまとまって見つかるセット(自然集合体)が、おそらく1個体分と解釈され、分類がなされてきました。上松さんは、1セットのエレメントの拡大模型を紙粘土で作り、その立体的な配列を再現する試みもしています。目下の夢は、エレメントを含む岩石を丸ごと透視することです。そうすれば、生きていた状態のまま化石化した構造が見えるかもしれません。


                     
コノドントの歯並びを再現した350倍の模型の画像コノドントの実物大復元模型(右)
<コノドントの歯並び(歯列)を再現した350倍の模型(左)コノドントの実物大復元模型(右)。右の「魚」の喉の奥に左の「歯」が並んでいる。<

 地球上の生命はこれまでに5回の大量絶滅を経験してきました。オルドビス紀末(約4億4400万年前)、デボン紀後期(約3億7200万年前)、ペルム紀末(約2億5200万年前)、三畳紀末(約2億100万年前)、白亜紀末(6600万年前)の5回です。コノドントは三畳紀末の大量絶滅で絶滅しましたが、その前に3回の大量絶滅を生き延びたことになります。


         
コノドントが入っている石を酸で溶かして微小な化石を取り出し、顕微鏡下で選り分ける。コノドントが入っている石を酸で溶かして微小な化石を取り出し顕微鏡下で選り分ける

コノドントが入っている石を酸で溶かして微小な化石を取り出し、顕微鏡下で選り分ける。


 化石にも残らないような生きものが、どうして生き残れたのでしょう。そんなにタフなのになぜ、最後はあっけなく絶滅してしまったのでしょう。上松さんはその謎にも取り組んでいます。コノドントは日本からも見つかります。タイなど海外の化石産地での調査も行っています。研究室では、放散虫などの微化石のほか、恐竜の足跡化石の研究なども行っています。謎解きが好きな探偵団を募集中とのことです。


文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


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