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植物が自ら傷口を修復する時の細胞増殖の仕組みを解明

研究イメージ画像
 植物は、茎などの一部が切断された際に、自らつなげて元通りにする修復能力を持っています。本研究では、このプロセスにおいて、傷口を埋めるために活性化された細胞分裂を適度に制御し、修復を完了させる役割を担う遺伝子At2-MMPを発見しました。

 植物の茎を傷つけると、周辺の細胞が増殖し、傷害を受けた組織が修復、癒合することで機能が回復します。この性質は、果菜類や果樹などの接ぎ木として利用されています。しかし、この過程について、細胞増殖の開始に関する研究は多くありますが、増殖のブレーキとなる抑制メカニズムに関する研究は、ほとんどありませんでした。

 本研究では、シロイヌナズナを対象に、タンパク質分解酵素の一種At2-MMPが、切断された花茎(花のついた茎)の組織修復プロセス中の細胞増殖の抑制メカニズムに重要であることを示しました。シロイヌナズナのAt2-MMP遺伝子が欠損した変異体(at2-mmp変異体)と野生型について、切断後の組織修復の様子を比較したところ、at2-mmp変異体では、切断部における異常な細胞増殖が促進されていました。

 切断された野生型のシロイヌナズナの花茎では、切断後約3日目に髄組織(根や茎の中心部)で細胞増殖が始まりますが、At2-MMPの転写産物は、0日目から5日目にかけて徐々に増加し、7日目には減少して組織の修復が完了します。しかしat2-mmp変異体では、異常な細胞分裂が起きていることが画像解析で確認されました。一方、At2-MMP遺伝子を過剰に発現させた場合、野生型と同様に正常な傷の回復が観察されました。以上のことから、At2-MMPは組織修復プロセスにおいて、切断部での細胞分裂を抑制し、異常な細胞増殖を防いで組織の修復に寄与していることが示されました。このような機能は、移動できない植物が傷害に対する自己治癒力を向上させるために獲得した生存戦略の一つである可能性があります。

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プレスリリース

研究代表者

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岩井 宏暁 准教授

帝京大学理工学部バイオサイエンス学科
朝比奈 雅志 教授

掲載論文

【題名】
At2-MMP is required for attenuation of cell proliferation during wound healing in incised Arabidopsis inflorescence stems.
(At2-MMPは切断したシロイヌナズナの花茎の組織癒合中の細胞増殖の抑制に必要である)
【掲載誌】
Plant and Cell Physiology
【DOI】
10.1093/pcp/pcae103

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