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学長所信表明
国際卓越研究大学への申請
昨年12月24日、国際卓越研究大学の第2期公募が始まりました。執行部や大学経営推進局を中心に、系長や域長からの意見も聴取しながら、今年5月16日の締め切りに向けて第一次審査書類を作成中です。
なぜ本学は、国際卓越研究大学に応募しようとしているのでしょうか。25年の長期にわたって大学ファンドから多額の助成を受けられることが目的ではなく、その資金を用いて本学の理念を実現しようと考えているからです。本学は、建学の理念において、固定化された社会を変革することを謳っています。国際卓越研究大学にふさわしい研究?教育を推進し、その成果をもって固定化された社会を変革することこそが本学の大きな目的です。それは、我が国の元気に必要だからです。

Japan Was Number One
1979年に出版されたエズラ?F?ヴォーゲル博士(1930~2020)のJapan as Number One: Lessons for America (Cambridge, Ma: Harvard University Press) は、日本でも翻訳されて70万部を超えるベストセラーになりました。この本は、日本から何を学ぶべきかを米国人に向けて記したものです。優秀な官僚制とそれに従う民間企業、指導者に従う結束力の高い政治、数学から体育?音楽まで高い水準で一律に実施されている教育、企業や家族などの団結力に支えられた福祉、警察とそれに協力的な国民による防犯などに注目しています。
先の大戦が終結した時(1945年)、まさに日本は焼け野原でした。そのどん底からの復興と繁栄は驚異的なものでした。東海道新幹線が営業を開始し、羽田空港から初台まで首都高速が開通し、前の東京オリンピックが開催されたのは、終戦からわずか19年後の1964年でした。1952年に独立を回復した日本は、米国の強大な軍事力に守られた自由貿易体制という国際公共財の恩恵を受け、軍事にお金をかけずに経済成長に専念することができました。1955年にはGATT(関税及び貿易に関する一般協定;その後、WTO(世界貿易機関に発展))に加入し、1964年にはアジア諸国として初めてOECD(経済協力開発機構)に加盟し、先進国の仲間入りを果たしました。国民総生産(GNP)は、1950年には230億ドルにすぎず、西側諸国第7位でしたが、1966年にフランス、1967年に英国を抜き、1968年には1,419億ドルに達し、西ドイツを抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国となりました。1956年度から1973年度までの経済成長率の平均は9.1%だとされています。先に述べた1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万国博覧会は、日本の高度経済成長を内外に印象づける国家プロジェクトでした。1970年代に2度の石油危機やスタグフレーションに見舞われたものの、日本は、「一億総中流」と呼ばれる社会を実現しました。国民の生活も豊かになり、平成2年の耐久消費財の世帯普及率は、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、カラーテレビがほぼ100%、乗用車、電子レンジ、エアコンも60~80%程度に達していました。
1965年に貿易収支が逆転して以降、日米間には、60~70年代は繊維製品や鉄鋼、テレビ、80年代は自動車や農産物、金融?サービス、半導体?コンピュータ、知的財産権などをめぐって経済摩擦が生じました。米国の貿易赤字を減らすためにドル高を是正する昭和60(1985)年のプラザ合意によって円高が進行すると、投資が為替リスクのない国内市場に向けられ、土地や株式の価格が上昇するバブル景気となります。平成元(1989)年12月29日の日経平均株価は3万8,915円の高値を付けました。9月にはソニーがコロンビア映画を、10月には三菱地所がロックフェラー?センターを買収し、「ジャパンマネー」が「米国の魂」を買うことへの反発もありました。同年12月の企業時価総額ランキングは、1位がNTT、2位が日本興業銀行、3位が住友銀行など、日本企業が10位までに7社、50位までに32社を占めていました。米国企業は50位以内に15社でした。Japan was Number Oneだったのです。
経済力と研究力の低下
ところが、バブル崩壊後、日本経済は長期的な不況に陥ります。1991年度から2023年度までの経済成長率の平均は0.8%にとどまり、マイナスになることもありました。名目GDP(国内総生産)は、平成22(2010)年に中国に抜かれ、狗万app足彩,狗万滚球5(2023)年にはドイツにも抜かれて4位に転落しました。現在、経済をはじめ、日本は元気を失っているというのが私たちの実感ではありませんか。なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか。
米国は、Japan as Number One: Lessons for Americaの出版を契機に、そのタイトルどおり、産業構造を大きく今につながる形に変え始めたのです。つまり、デジタル、金融サービス、あるいは宇宙利用などの分野への投資を始めたのです。狗万app足彩,狗万滚球7(2025)年2月の企業時価総額ランキングでは、50位以内に入っている日本企業は1社もありません。米国企業は32社も入っています。第1位はApple、第2位はNVIDIA、第3位はMicrosoft、第4位はAmazon、第5位はAlphabet(Google)、第7位はMeta(Facebook)です。Microsoft 及びApple以外の企業は、平成元年当時にはありませんでした。日本の企業は新しい分野に対応することができず、また新しい企業も成長しなかったということです。
日本の研究力も著しく低下しています。2000年以降、日本は、本学の白川英樹名誉教授をはじめとして自然科学系(物理学賞、化学賞、生理学?医学賞)で20名のノーベル賞受賞者を出し、世界でも大きな存在感を示しています。しかし、受賞の対象となった研究のほとんどは受賞者が若い時に為されたものです。日本の自然科学系の論文数は1989~2005年が第2位、被引用数の高いTop10%補正論文数は1993年までは第3位、94~2005年までは第4位でした。2023年は、論文数が世界第5位なのにTop10%論文数は世界第13位にまで後退しています。中国及びグローバルサウス諸国による自国または中国からの被引用数割合が高いことの影響もありますが(文部科学省科学技術?学術政策研究所『科学技術指標2024』、152頁)、被引用数の低さは日本の研究が世界の最先端のテーマを扱っていないことを意味し、したがってイノベーションの種を励起できず、産業化にも結び付かないと考えられます。日本の研究力の低下は、中長期的に今後の日本の経済力の低下を導くおそれがあります。
再生への鍵
資源に恵まれない我が国にとって、科学技術の振興と経済?産業の発展こそが正のスパイラルを加速する原動力です。そして、それらを支え、動かすのは人です。へこたれている日本を再生するには、人材を育て、経済でも研究でも這い上がっていくしかありません。
トランプ米大統領の"Make America Great Again"(ひょっとしたらJapan as Number One: Lessons for Americaと同じような考察をしていても、行動が!?)のように、古き良き時代の日本をただ懐古し称揚すれば事足りる、というわけにはいかないでしょう。日本の経済成長の源泉は何だったのでしょうか?ヴォーゲル博士は国民の知力が経済発展の原動力だと見ています。国民の学習意欲が高く、読書の習慣があり、情報収集に余念がなく、それが組織集団のために使われていたというのです。科学技術の発展についても、一人ひとりの研究者が研究力を高め、国境、組織、分野の壁を越えて人と人をつなぎながら研究力を強化し、新たな学術的?社会的?経済的価値を生み出していくことが重要だと考えられます。そして生み出された価値に基づいて固定化された社会を変革していく。本学は、それを国際卓越研究大学への申請書の中で具体的に提案しています。
日本の「知の総和」を向上させる教育
開学50周年を経てNEXT50に向けて、建学の理念をよく咀嚼して様々な本学の基盤を立て直すことが必要です。学士課程教育においては、学類システムを真の学位プログラムに再構築することが肝要です。大学院課程においては、真の総合大学にふさわしいシステムを考案していかなければなりません。いったい、学生は、教職員は皆、本学の3ポリシーを理解しているでしょうか。本学の個性を理解しているでしょうか。
学際サイエンス?デザイン専門学群(マレーシア校)
昨年9月1日、海外で初めて日本の学位を授与する大学として狗万app足彩,狗万滚球マレーシア校が開校し、学際サイエンス?デザイン専門学群が設置されました。9月2日にはマレーシアのザンブリー?アブドゥル?カディル高等教育大臣を招いて署名式を行い、矢野和彦文部科学審議官、髙橋克彦駐マレーシア大使、マレーシア高等教育省副事務次官らのご参加のもと開校式および入学式を挙行し、第1期生13人を迎えました。さらに9月3日には、マレーシア校にマハティール元首相をお招きし、双方向コミュニケーション型の講演を行っていただきました。開校に至るまで、日本及びマレーシアの大学設置等に係る制度上の課題等、高いハードルがありましたが、稲垣敏之大学執行役員、辻村真貴学群長をはじめ、関係する職員の方々に一方ならぬご尽力をいただきました。
マレーシア校は、2018年にマハティール首相(当時)が東京を訪れたときに安倍晋三首相(当時)に提案したことで生まれたものです。マハティール元首相が日本の大学の分校設置を望んだのは、知識を修得させるためだけではなく、日本の文化的価値観や日本の規律、勤勉、献身などをマレーシアの学生に修得させるためでした。日本の価値観を取り入れることがマレーシアの発展につながるとお考えになったのです。
新学群は、データサイエンスを基軸とし、自然科学、人文社会科学の考え方、技術を、各分野を深化させるだけではなく、環境に関する課題などを代表とする広い社会課題に適用し、デザイン思考を踏まえつつ創造的に地球規模課題解決に貢献する人材を育成することを目的としています。未来の社会を切り拓く「知」を生み出し、それを社会に活用できる有為の人材が多数飛び立っていってくれるだろうと期待しています。
本学は、日越大学、マレーシア日本国際工科院(大学院)(MJIIT)、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)、オグズハン工科大学(トルクメニスタン)の創設と運営にかかわり、またウズベキスタンの高等教育課程創設要請にも協力しようと考え、海外への日本型及び本学型の教育輸出に努めています。新学群は、そういった海外への日本型及び本学型の教育輸出の一つであるとともに、学群教育方法のショーケース組織です。多くの国内外の大学からの羨望の思いと協力の申し出などがあり、基盤が確立できればこれを十分に活用させていただこうと考えています。多くの研究大学と互恵的な連携をすすめ、我が国の国際化の推進にも寄与したと考えています。地域との十分な協働を果たしつつ、新学群を育成していきたいと思います。
「知の総和」の向上に向けて
想定以上の急速な少子化が進んでいます。2025年2月末に厚生労働省が発表した人口動態統計によれば、2024年の出生数は72万988人で、外国人を除くと70万人を割ると見られています。10年前と比べ3割減となっています。
昨年11月、文部科学省は、国立社会保障?人口問題研究所の「出生低位?死亡低位推計」を用いて大学入学者数を推計しました。18歳人口は、2030年が105.1万人、2035年が96.4万人、2040年が73.9万人、2045年が69.7万人、2050年が67.8万人と推移し、大学進学率が2030年は58.2%、2040年は59.6%、2050年は60.2%と徐々に上昇すると仮定した場合、2023年度の入学定員に対する定員充足率は、2035年は93.4%、2040年は72.8%、2045年は69.2%、2050年は67.7%になるとされています。2033年政府目標の外国人留学生比率5%(教育未来創造会議第二次提言)の増加ペースで2023年から2040年まで外国人留学生が増えたとしても、2050年の定員充足率は71.7%にしかなりません。
中央教育審議会は、2025(狗万app足彩,狗万滚球7)年2月21日の第141回総会で「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)」(中教審第255号;以下、「知の総和」向上答申)を取りまとめ、文部科学大臣に手交しました。環境問題の劣悪化、食料?水?資源?エネルギーの不足、国際情勢の緊張、世界経済の不安定化、AI(人工知能)の進展による効率化とリスクなど、世界は数多くの課題に直面しています。我々は、そうした課題を解決しながら、一人ひとりの多様な幸せと社会全体のwell-beingの実現を核とした持続可能な活力ある社会を目指す必要があります。高等教育は、真に人が果たすべきことを為せる力を備え、人々と協働しながら課題を発見し解決する人材を育成しつつ、我が国の「知の総和」を向上させてイノベーションを通じた技術進歩に寄与する必要があります。「知の総和」は人の数と人の能力との積であり、急速な少子化?高齢化とそれによる労働力不足が進行している以上、一人ひとりの能力をこれまで以上に高めなければなりません。そのために、高等教育の「質」の向上、「規模」の適正化、「アクセス」確保という三つの目的を調和させながら進めることが必要だとされています。
「知の総和」向上答申は、留学モビリティの拡大や社会人の学びの場の拡大、障害のある学生への支援、通信教育課程の質向上など多様な学生の受入れ促進を求める一方、高等教育全体の「規模」の適正化の推進について次のように提言しています。「一定の学士課程定員の規模縮小をしつつ、質の向上と連動して規模縮小を実施する大学、収容定員?資源を学部から大学院へシフトする大学、質を確保した上で留学生や社会人を増加する大学等に対する支援を行う」。具体的には、各大学が、大学固有のミッションを再確認し、地域密着型の大学であれば地域?産業のニーズに応じた学部?学科等の再編、研究型大学であれば収容定員を既存の学部から大学院へのシフト、地域内外の高等教育機関との統合など、再編?統合、縮小、撤退等を進めていくことが求められており、それらに対する支援が行われるべきだというものです。
入試改革の早期実現と英語科目の拡充
本学は、世界のトップ大学と伍して卓越した教育研究、社会実装を推進することに取り組む研究型大学として、一部の収容定員を大学院へ移すことを考えなければなりません。同時に学類?専門学群の定員も一定程度確保できるように、減少する18歳人口に代わる多様な学生の受入れ、とりわけ外国人留学生の受入れが不可欠です。「知の総和」向上答申は、「多様な価値観や異文化を持つ者が相互に刺激を与えながら切磋琢磨する場は、高等教育機関としての教育研究の質の高度化に資する」と述べており、多様な価値観をキャンパスに集める必要性を指摘しています。世界各地から多数の優秀な外国人留学生を確保しうる入試やカリキュラムへと一刻も早く改革することが重要です。
本学の推薦入試は、開学時から実施されており、我が国の他の大学に先駆けて導入したものです。またAO入試を初めて実施したのは慶應義塾大学ですが、国立大学では東北大学、九州大学とともに本学が最初に導入しました。他の大学のモデルになる新しい入試制度を考案して実現することが建学の理念に沿った本学のあり方です。
本学の教育研究に対する姿勢を理解し、本学が授けるディプロマを取得するためのカリキュラムに適合している者を選抜する仕組みを早急に設計しなければなりません。選抜は、日本人であるか外国人であるかに関係なく、本学で学ぶことに対する熱意、問題発見能力や批判力、分析能力、論理的記述力、そして人間性を、時間をかけて見極めるものにする必要があります。
また外国人留学生が、英語の授業を受けるだけで卒業できるようにしていくことが重要です。そのためにはまず英語プログラムを設け、次第に一般のプログラムにも英語の授業を増やして、外国人留学生が日本人学生と一体感を持って学べる教育環境を整備していってほしいと考えています。他方、外国人留学生が、卒業後、日本の企業で働くためには、日本語の能力が必要になることが多いというのが現実です。そのために日本内外のアカデミアや産業界で活躍できるよう、外国人留学生に対する日本語教育の充実も必要です。初歩水準の日本語学修を日本語を母語としない者には必須としたいと考えています。日本人学生の英語コミュニケーション能力、外国人学生の日本語によるコミュニケーション能力を向上させて、「留学生」という言葉が意識されることがないぐらいに、外国人学生と日本人学生とが一緒に学び、交流する「国際性の日常化」を実現させていきたいと考えます。
チュートリアル教育と1年次全員入居システム
「知の総和」向上答申では、「学修者本位の教育」をさらに推進していく必要があるとし、学生が主体的?自立的に学ぶための環境を構築することや出口における質保証の重要性を説いています。学生が主体的?自立的に学ぶ環境の例としては、「俯瞰的?横断的な視野、複数の異なる視点のアプローチを用いて思考する力を育成する観点から、複数の学問分野を通じて基礎的?汎用的な能力を身に付ける教育や、実践的な教育研究を実施するなど、柔軟な教育課程を編成すること」が挙げられています。教員と学生が学問的な問題を設定して議論を重ねるチュートリアル教育は、学修者本位の教育と学修成果の可視化にマッチした取組だと考えます。
本学は、指定国立大学法人の構想の中で、個人指導によって「学び」を深めていくつくば型チュートリアル教育をおよそ10年かけて全学に広げていくことを謳っています。学士課程において真に自身の将来像を見つけるために、①入学から卒業まで一貫して行われ、②学生が、対話と議論をとおした学びから専門分野とそれに連なる広範な分野への造詣を深め、③批判的?創造的な視点をもって社会と向き合い、④社会課題への解決策を未来に向けてデザインできる力を養うものです。構想では今年度から40人規模で始める計画でしたが、昨年度、計画を前倒しして、総合科目(学士基盤科目)「学問探究チュートリアル」を開講し、取組を始めています。
全面リニューアルを計画している学住近接型学生宿舎は、チュートリアル教育を行う場にもなります。同じキャンパスで切磋琢磨することは学生にとって重要な意味を持っています。学群の新入生は、英米の有名大学の全寮制のように、原則として全員、一度は豊かな自然に囲まれた学生宿舎に入り、世界の多様な文化と価値観に溢れるコミュニティの中で同じ釜の飯を食い、狗万app足彩,狗万滚球の一員としてのアイデンティティを育むようにしたいと考えています(1年次全員入居システム)。第4期中期計画では、「学生宿舎への新入生の入居率を狗万app足彩,狗万滚球9年度(2027年度)末までに80%にする(体験入居、ショートステイを含む)」ことを目標としています。
宿舎エリアには、大学債「狗万app足彩,狗万滚球社会的価値創造債」という社会からの投資を活用し、昨年度から未来社会デザイン棟の建設を開始し、今年度に竣工する予定です。この施設には、企業?地域社会との交流スペース、発想を具現化するクリエーションスペース、企業と学生が連携する産学共創スペース、イベントホールを設けます。未来社会デザイン棟は、社会活動との交流の中で主体性?社会性を育成する場、教育研究に加えて社会事業を体験した学生の文化発信の場、地域社会との交流の場、教職員と企業の研究者がアンダーワンルーフで共同研究を行って課題を解決する教育研究に挑むマインドを醸成する場となります。本学と共同研究している企業や研究機関のショーケース、海外拠点窓口、真にワンストップサービス窓口となるグローバル?コモンズも入居させ、学生が絶えず社会との関わりや地域との交流を意識して活動できるようにしたいと考えています。
カリキュラムの2+4/3+3制
本学は研究型大学であり、大学院教育の拡充は必須です。
「知の総和」の向上のためには、人の能力を増大させることが必要です。科学技術?学術政策研究所(NISTEP)によれば、人口100万人当たりの博士号取得者数(2018年)は、英国375人、ドイツ336人、韓国284人、米国(第一職業専門学位を除く)281人に対して日本は120人しかいません。日本の2002年の博士号取得者数は米国、韓国、フランスと同じぐらいでしたが、その後あまり増えていません。日本の「知の総和」を向上させる一つの方策は、大学院で学位を取得するのが当然の社会にしていくことです。
「知の総和」向上答申では、質の高い大学院教育を推進するために、「体系的な教育課程を編成することで、学士課程から博士課程まで縦の連続性の向上を図る」ことが重要であり、自然科学系を念頭に置いた「修士?博士課程の5年一貫学位プログラムの構築」などを方策として提示しています。本学の多くの学位プログラムは博士前期?後期課程の区分制に移行していますが、開学時の大学院は、研究者養成の一貫制博士課程と高度専門職業人養成の独立修士課程の二課程並立制でした。以前の一貫制博士課程を単純に復活させればよいわけではなく、汎用的能力を含めた学位の質保証や研究科?専攻におけるより組織的な指導体制の確立が必要だとされています。
3年前から、学士課程4年+修士課程2年+博士課程3年という教育課程を、学制を維持しつつ、米国型リベラルアーツ2年+メジャー4年(または3年)+アドバンストリサーチ3年(2+4/3+3制)のカリキュラムに変えることを提案し、各教育組織で検討していただいています。2+4/3+3制は、「知の総和」向上答申に記された、学士?修士の5年一貫教育の推進等の施策も講じながら大学院修了をスタンダードにしていくといった発想の転換の求めに一致しています。2+3+3の2+3は、学士?修士の5年一貫のカリキュラムを意味します。本学には、学士課程と修士課程の5年間で新興国の地域専門家を育成する地域研究イノベーション学位プログラム(ASIP)の実績があり、また文系では学士?修士の5年一貫のカリキュラムについて積極的な議論が始まっていると認識しています。理系のみならず文系でも大学院に進学するのが一般的になるように工夫し、日本の高等教育のあり方に質的な変革をもたらしたいと考えています。
米国型リベラルアーツは、専門分野にとらわれず、それぞれの興味?関心に基づいて様々な分野の学問を選択して学ぶことによって、幅広い知識や技能を身につけ、人間性や創造性、実行力などを育成するものです。米国では、医学や法学などの専門分野は、メディカルスクールやロースクールで学ぶもので、学士課程で学ぶことはできません。工学や教育学なども大学院での専門教育が中心になってきています。科学技術の進展や社会問題の複雑化により、特定の問題に取り組むためには、一つの専門分野だけでは対応できなくなっています。高度な専門教育を受ける前に、その専門分野を学ぶための基盤として広く深い思考が必要です。最先端の研究に取り組む人材を育成している米国のアイビーリーグの大学でもリベラルアーツを重視しているのはそのためです。
「知の総和」向上答申では、学修者一人ひとりの志向に応じた可能性を最大にするためにレイトスペシャライゼーションにも言及しています。昨年度末、2021年度入学の最初の総合学域群生だった学生たちが卒業しました。総合学域群は、学生が幅広い視野から文理の区別にとらわれない学問的発想を磨き、自分の関心に適した専門分野を選択するレイトスペシャライゼーションを採り入れています。今後、総合学域群の拡大を含め、学士課程の最初の2年をどのように教育していくか、2+4/3+3制の検討の中で議論されるものと承知しています。
加えて、各学修段階にはそれにふさわしい教養も必要です。2、4/3、3の各段階でのリベラルアーツ型教養教育についても考慮すべきだと考えています。
学際創造学術院と学術院総合戦略本部
2020年度に大学院を人文社会ビジネス科学、理工情報生命、人間総合科学の三つの学術院に再編し、学位プログラム化しました。将来は大学院を一つの学術院に統合し、学位プログラム編成の自由度を格段に向上させ、組織、分野、制度の壁を越えた大学院教育を実現し、次世代の学術を担う大学院生の学びの障壁を減らしたいと考えています。それに至るまでの間、現在の三つの学術院を横断する学位プログラムを編成?運営する学際創造学術院の設置を計画しています。学際創造学術院も、その他の多くの学位プログラムも、完全ダブルメンター制(共同研究する異分野のメンター教員による複数指導制)とできればリバースメンター制(両分野を学んだ学生が各メンター教員に対して異分野の内容を逆の立場で教示する仕組み)を取り入れ、複数の分野を融合させる革新的なバイディシプリン教育を志向すべきだと考えています。
学際創造学術院には、新たな視点による研究者養成の法学系の博士後期課程学位プログラムや、数理?データサイエンス?AI教育×ドメインの博士前期課程の学位プログラムなど、学際的な学位プログラムが設置されることを期待しています。第4期中期計画では、今年度までに学際創造学術院の具体的計画を策定することになっています。
なお、今年度は、第4期中期計画期間の4年目に当たります。国立大学法人評価は、6年間の中期目標期間中、4年目終了時と6年目終了時の2回実施されますが、4年目終了時評価は、各大学が次の中期目標期間の業務計画を立てるときに法人評価の結果を活用できるようにするために行われます。したがって4年目終了時評価は、6期目のそれよりも大きな意味を持っており、今年度終了時点で各KPIを達成する(あるいはその見通しが立つようにする)ことがきわめて重要です。
人間総合科学学術院の発案により、社会変革の担い手である大学院生を育成するために、社会との連携を基盤とし、学位プログラムを横断した俯瞰的?客観的分析に基づいて大学院を戦略的に運営する学術院総合戦略本部が設置され、概算要求事業として採択されています。3学術院ごとに「デザイン」「アライアンス」「マネジメント」の三つの機能を有する部会を置く一方、それらを統括する連絡会議を設置しています。学術院総合戦略本部の活動を通じて、産学官連携の推進や学生の研究力の分析?可視化などを学位プログラムの充実?創出につなげていきたいと考えています。今年度、十分な準備をした上で、狗万app足彩,狗万滚球8年度拡充要求を提出したいと考えています。
研究システムの変革と研究力強化
MDA分野の国際産学研究と人材育成の推進
データサイエンス、AI、サイバーセキュリティなどのデジタル分野における研究と教育における日米の大学や研究機関、民間企業の連携を組織的に支援する体制構築を行う日米デジタルイノベーションハブコンソーシアムで国際的な産学官連携を進めてきました。その一つの成果として、当時の岸田文雄首相の訪米の機会に合わせ、昨年4月9日、米国商務省で、盛山正仁前文部科学大臣、山田重夫駐米大使、ジーナ?レモンド商務長官の立ち会いの下、ワシントン大学、NVIDIA社、Amazon社と、AI分野でのパートナーシップに合意し、調印式を行いました。このパートナーシップは、AI分野における研究、人材育成、アントレプレナーシップおよび社会実装の推進を目的とした10年間の連携の枠組みです。NVIDIA社、Amazon社からは、計5,000万ドル(約75億円)が支援されています。AI技術は、未来の社会を支える重要な技術の一つであり、その先端研究と人材育成は大きな課題です。このパートナーシップは、日米の協力を先導していく重要なものであり、世界が直面する多くの地球規模課題の解決のために重要な役割を果たしていくでしょう。人工知能科学センター(C-AIR)を中心に共同研究の成果を上げ、加えてグローバルな研究拠点をつくりあげていくことを強く期待しています。
数理?データサイエンス?AI(MDA)分野における研究の強力な推進とそれを担う次世代の人材の育成は、日本がSociety 5.0あるいはその後の社会の変革の先導者となれるかどうかの鍵だといっても過言ではありません。本学は、2021年度から、分野融合型数理?データサイエンス?AI教育推進本部の下で、学士課程?博士前期課程(修士課程)?博士後期課程の各教育組織が、それぞれのカリキュラムに、リテラシー、応用基礎、応用の各レベルの数理?データサイエンス?AI教育を有機的に組み込むことを目指しており、それを一層、進めていきます。またMDA分野における実務と研究を共同遂行し、次代の人材を育成するため、UiPath株式会社などに続いて、昨年から本年にかけて、株式会社NTTデータ、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、株式会社セガと次々にMDA人材育成戦略パートナーシップ協定を締結しています。これらの企業と連携し、企業からのトップ人材派遣や共同研究を進めるとともに、学生を企業等に派遣し、研究型インターンシップ?連携研究を通じてMDA人材を育成します。また、企業とのパートナーシップを強化し、将来的にはコンソーシアムを設立し、企業等で活躍するMDA人材育成を目指します。
なお、本学の業務のDX化も喫緊の課題です。今年度、情報マネジメント専任の担当副学長を置きました。その下に情報マネジメント室を設置し、全学的なDX戦略の策定?実施を行います。この担当のもう一つの重要業務は、あらゆる意味でのIR (Institutional Research)/トランスIRを行うことです。情報マネジメント担当副学長は、教学?研究?財務?広報?マーケティング等の向上を支援する統合IR機構も統括します。
研究力強化
研究力強化のためには、新たに雇用する教員の選考は最も重要であり、十分なオリジナリティ溢れる研究力があるかどうか、今後の伸びしろの可能性など、相当の時間をかけて選考し、実績が十分であるなら、若くても高い職位で採用すべきです。これまで助教は原則としてテニュアトラック制を適用することとしていましたが、テニュアトラック制では優秀な若手の応募者が少ないという部局の声もあり、テニュアトラックではない助教採用人事を行えることとしました。人事選考にあたっては、これまで以上に冷徹に研究力の有無を審査してもらわなければなりません。本部でも任用部会の運用を改め、厳しい判定をしていくことになっています。人事方策は、本学の若手教員比率の向上、教員のインブリーディング率抑制にも大きく関係します。若手?中堅が一度は他大学を経験するなど、頭脳循環を促進するような人事戦略が必要です。昇任人事に関しても、長期展望に基づく計画と審査が求められます。
研究力強化には、研究支援体制の充実も必要です。教員、職員に続く「第三の職」と呼んできた、研究を支援する専門職人材の充実です。本学には、URA(University Research Administrator)のほか、技術職員、ファンドレイザー、基金マネージャー、技術移転マネージャー、クリエーティブマネージャー、産官学共創プロデューサー、輸出管理マネージャー、利益相反アドバイザー、情報セキュリティーリスクアドバイザー、スポーツアドミニストレーター、アスレティックトレーナー、臨床研究データマネージャーなど、すでに22職種以上、300名以上もの専門職人材がいます。国際卓越研究大学として採択されるようであれば、これらの専門職人材をさらに増やす予定です。今年度は、専門職人材の評価、処遇などについて検討する予定です。
研究力強化のためには、教育及び学内運営の効率化を進め、研究時間の確保をする必要があります。教育に関しては、すでに、入試問題作成の退職教員への委託や入試監督業務の大学院生への委嘱を行えるようにしています。また昨年も書いたように、教育に関する教員グループをつくり、開講科目を精選し、科目を交代で担当するチーム?ティーチング等を行う科目グループ制を活用し、数年に一度、交代でサバティカルをとれる体制を構築してほしいと考えています。学内運営については、学内会議を削減し、部局マネジメントを部局長に完全に委任するなど、各部局で工夫すべきだと考えています。
高等研究院
2024年12月、学術と社会の発展のための次世代型研究組織として、世界最高水準の研究成果を持続的に生み出すとともに、新しい研究を創生する研究環境を構築し、それをもって世界における知のフロンティアの開拓と新たな価値創造に貢献するため、高等研究院を新設しました。高等研究院には、国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)と、世界のトップ水準に発展しうる人工知能科学センター、ホウ化水素研究センター、微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS)が参画します。これらのセンターが研究力を高め、一定の権限を有する研究組織としてスピンアウトしていくことを企図しています。
高等研究院には、社会と科学の研究ユニット及び自発研究ユニットを置いています。社会と科学の研究ユニットは、人文社会科学の専門家も交えながら、社会に今後生じてくると考えられる領域を見極めて研究を進めていくものです。
自発研究ユニットは、若手?中堅研究者のリサーチリーブと研究環境整備によってトップ研究者へ育成しようとするものです。自発研究ユニットには、国際テニュアトラック教員として雇用する国内外の若手研究者、世界における知のフロンティアの開拓と新たな価値創造に貢献しうる研究構想を持つ学内の若手?中堅研究者を自発研フェローとして採択し、一定期間、研究に打ち込めるようにします。すでに昨年度末に自発研フェローの募集を行いました。今後もこの仕組みを活用して、優れた研究成果を多数発表する若手?中堅の教員が出てくることを期待しています。
ボトムからの研究拠点形成
一方、これまで本学の研究システムを運営していた研究戦略イニシアティブ戦略機構は、高等研究院の設立に伴い、個人、各種グループ、系、高等研究院に入っていない研究センター(共同利用?共同研究センターを含む)などの研究支援を行う基盤研究院へと改組します。学際的な研究グループを創成するためのインキュベーターが学術センターです。各研究センター、学術センターを支援し、高等研究院の支援対象のセンターへと昇格させるのも基盤研究院の役割です。
研究支援の要点は、運営費交付金が増えないのでそれ以上の外部資金を調達することと、世界と戦えるように研究環境を整えることです。外部資金の代表格は、科研費です。研究者の皆さんには、基本的にあらゆる分野を網羅している科研費に申請することを強く求めます。また、それ以外の競争的資金に対しても、アンテナを高くしていただきたく思います。優れた研究を進めるためには、有能な支援者も必要です。部局からのURA等の配置要望が強くなってきています。教員、職員、専門職員を包含的に流動化して再配分することが必要なところまできていると考えています。また、これらのカテゴリーを超えて、ポジションを変えることができるようにするための方策が必要であろうとも考えています。研究環境については、上述した研究時間の確保が最も重要です。また、健全な雰囲気作りも欠かせません。本年度から、研究力強化とリスクフリーの環境を維持する観点から系内に適正な構成員数からなる域を設置し、域長を置くことを義務付けました。講座制を廃止し、教授会を排し、助教をもPIとする本学は、今後目指すべき研究体制(研究室制、グループ制、大講座制的グループ、科目グループ制など)について議論することが重要です。具体的な改善方策については、系長ならびに域長を中心に策定し、実行に移していただきます。
開発/社会実装研究
本学は、開発研究、実証実験、社会実装研究を通した社会への貢献をさらに推進します。我が国の企業との共同研究および大学発ベンチャーはシーズドリブン型です。本学でも、シーズを社会実装するために、外部資金だけで運営される開発研究センターを設立しています。2023年3月に発足させたトランスフォーメーションコネクト(Transformation CONNECT)機構は、AIから人工頭脳への展開、エネルギーや温暖化などに関する課題の解決、宇宙の利用やロボットとの共生社会の実現に向けた研究とそれによって発生する課題の解決、そのほか今後現れるであろう未来型の課題に関する基礎?応用研究をIR(Institutional Research)?トランスIRを駆使して推進し、産業化へつなげるための司令塔です。
他方、本学は、企業や社会のニーズから出発し、地域社会から地球規模までの様々な社会課題を解決し、より良い社会の実現に寄与するために、現実社会における実践に向けた開発研究を行うとともに産?学?官の壁を越えたニーズドリブン型産学共同研究を推進しようとしています。本学では、そのために企業のR&D(研究?開発)研究所を誘致し、企業が、本学の人材や設備?備品を活用して開発研究を推進するB2A2B研究所を設立します。B2A2B(Business to Academia to Business)の研究のために、大学債により2027年までにIMAGINE THE FUTURE. Forum(ITF.F)を建設します。
国際産学連携本部は、ベンチャーエコシステムを構築し、育成システムを充実させてスタートアップ創業数を増加させてきました。アントレプレナー教育からスタートアップの成長支援を経て資金が教育システムに還元されるエコシステムを強化し、スタートアップを増加させていくことを期待します。特に、アントレプレナー教育の英語化、大学発ベンチャーの意見交換などのためのプラットフォーム(言ってみれば、大学発ベンチャー同窓会)の立ち上げなどは重要な施策です。
昨年9月5日には、アメリカのボストンで、本学主催、在ボストン日本国総領事館後援で、2度目のUniversity of Tsukuba Night 2024を開催しました。これは、世界のイノベーション発信基地であるボストンで、本学と海外連携校の大学発ベンチャー創発と支援活動を広く広報し、本学のプレゼンスを高め、新たな連携を構築することを目的としたものです。本学発ベンチャーをはじめ、Campus-in-Campus(CiC)協定を締結している大学発ベンチャー4社を含めた11社が、ボストン近隣の投資家に対してピッチを行いました。出席した約500人の投資家等と活発な質疑応答が行われ、続いて行われたネットワーキングでは、ピッチを行った各ベンチャーの代表者が来場した投資家等と個別に意見交換をする姿も見られました。本学は、今後もこのようなイベントを通して、大学発ベンチャーの成長を支援していきます。
エンゲージメントの強化
地域との連携協働
本学は、エンゲージメントを大学と多様なステークホルダーが互いに貢献し合うことだと意味づけています。本学が教育、医療、産業、文化などについて責務を果たすべき「地域」は、つくば市及び茨城県、並びに国際社会です。
文部科学省が認める学生定員で始まった連携大学院は、研究機関の研究者を大学の教授?准教授として迎え、その機関の研究環境を活用しながら研究指導等を行う大学院教育の方式です。現在、特定国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)や特定国立研究開発法人物質?材料研究機構(NIMS)、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)をはじめとして筑波研究学園都市に存在する31の国や民間の研究機関の協力を得ています。平成16年度から始まった第二号連携大学院方式では、研究機関の研究者を大学の教員(連携教員)として迎え、その連携教員のみで構成する教育課程を編成し、本学の専任教員は協力教員として修学指導や学生生活支援を行います。さらに、国立?独立行政法人(国立研究開発法人を含む)?民間企業等の研究機関と本学が協力してコンソーシアムを形成し、それを母体として学位プログラムを運営し、産学官協働で人材を育成する、本学独自の協働大学院方式も展開しています。本学は、これらの量的な拡大と質の向上を目指します。
つくば市は、2021年度末、我が国に二つしか認められていないスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定されました。つくば市は、世界各地の科学技術都市に立地する研究機関、大学、企業等が集まる国際会議High Level Forumに参加する日本唯一の都市です。本学は、国際産学連携本部のオープンイノベーション国際戦略機構を中心に、未来社会工学開発研究センターの参画を得て、データサイエンス?AIの活用とそのための規制?制度改革を推進し、様々な最先端サービスを地域社会に実装して未来都市を創り出すスーパーシティ構想の実現に向けて協働していきます。つくば市を実証実験フィールドに成長させ、つくば市の住民がイノベーションの恩恵を感じられ、国際社会と密接につながっている街になることに貢献します。
国際戦略
昨年9月30日から10月4日までの5日間、第13回目となるTsukuba Global Science Week 2024(TGSW2024)が開催されました。初日と2日目はオンラインで5セッション、3日目から5日目までは大学会館で17セッションが開催されました。谷口智彦特命教授の「境界だらけの世界における科学:地政学的な研究とイノベーションに与える影響」と題した基調講演は、経済安全保障、研究セキュリティに関して大きな示唆を与えるものでした。本学も、研究インテグリティ、研究セキュリティの体制を整え、研究活動を進めていく必要があります。TGSW 2024には海外からの参加者も多く、全体の参加登録者は1,207名、そのうち対面の来場者は730名で、活発な議論がなされました。
このほど本学は、大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業のタイプⅡ(海外展開型)に「GASSHUKU(合宿)とDOJO(道場)によるグローバルスタートアップ人材育成」というプログラムで採択されました。ソーシャルインパクト創出支援事業は、日本人留学生の派遣、外国人留学生の受入れが連動するような国内外における国際共修体制の構築などを目的とするものです。本学のプログラムでは、CiCのパートナーであるフランスのグルノーブル?アルプ大学、台湾の国立台湾大学及び台湾成功大学と連携し、日本人学生と留学生が一緒になって、シェア型学生宿舎で多文化共修を行います。その後、国内の企業インターンシップ(GASSHUKU)、海外の大学?企業での共修(DOJO)で課題に取り組み、文化や言語、専門分野の違いを超えて地域社会の様々な課題を解析し、海外大学の学生や自治体、企業と協業して未来構想を提案し、グローバルな環境の下でオリジナルな課題解決を提案できるグローバルスタートアップ人材の育成を目指しています。
本学は、グルノーブル?アルプ大学とのダブルディグリープログラムを介してAir Liquide社と三者で共同研究を行っています。このようにCiCシステムを活用し、狗万app足彩,狗万滚球-CiCパートナー-海外企業の三者の共同研究を世界各国に拡張したいと考えています。世界12カ国に設置した狗万app足彩,狗万滚球の海外オフィスを中心に、現地のニーズに対応する共同研究を開発していこうと考えています。
これからの連携強化のターゲット地域はインドとアフリカです。狗万app足彩,狗万滚球6年11月時点で、本学の留学生比率は、旧帝国大学7大学と比較して、学士課程、博士課程ではトップ、修士課程では2番目を維持しているものの、前述したような急速な少子化を考慮すれば、留学生をもっと増やしていく努力が必要です。現地の大学のみならず中等教育機関への働きかけなどを通じた優秀な外国人学生のリクルートが重要です。教育推進部、学生部、国際局および各教育研究部局の有機的な連携が必須です。
国内外の優秀な研究者を獲得?育成し、国際的な頭脳循環を加速するため、国際テニュアトラック制度、海外教育研究ユニット招致プログラムも引き続き進めていきます。これらは、国際共同研究の強化や国際共著論文の増加などの成果を上げ、国際的なレピュテーションの向上につながります。
各種の世界ランキングの指標で大きなウエイトを占めるのは、研究者及び雇用者のレピュテーションです。本学のレピュテーションは、研究者からも、雇用者からも、本学の実力をかなり下回ったものになっていると思います。教員の皆さんの研究?教育に対する自己評価は高いので、国内外の研究者や雇用者からもっと高く評価されてもよいはずです。知り合いの研究者や雇用者に働きかけて、自大学のレピュテーションを上げることにも協力してくださることを望みます。
こうした本学の国際化、国際性の日常化の取り組みを進めつつ、本学は我が国の高等教育の国際化を牽引する覚悟を持とうと思います。それが、国立大学であり、指定国立大学であり、国際卓越研究大学を目指す大学の使命です。SGU支援事業期間に立ち上げたオンライン教育プラットフォームJV-Campus(Japan Virtual Campus)はその好事例です。グローバルコミュニケーション教育センター(CEGLOC)は、現在、他の大学と協働して、日本語?日本事情教育の中核拠点となろうとしています。この分野を設置することが困難な大学等の留学生の教育を牽引する拠点です。また、関東甲信越地域の国立大学(国大協の関甲信支部の大学:茨城大、筑波技大、宇都宮大、群馬大、埼玉大、千葉大、横浜国大、新潟大、長岡技科大、上越教育大、山梨大、信州大)の国際化活動に資する方策を企図しています。
附属病院
本学の附属病院は、高度医療の実践や医療技術の開発という大学病院としての使命と、茨城県唯一の特定機能病院としての先進研究に基づいた地域医療の使命があります。2024年度は、病棟?施設整備のための資材等の高騰や働き方改革の影響により支出超過になりましたが、今後は支出に見合う収入の確保が必須です。
高度先進医療に関しては、超先端的医療研究開発拠点を形成し、データサイエンス?AIなどによる研究開発基盤を構築して、最先端医学の研究成果の社会実装に向けた共創の場を確立する必要があります。またX線に比べて副作用の少ない陽子線?中性子線を用いた最先端治療法の実用化を進め、世界一の粒子線治療研究拠点となるよう期待しています。
附属病院は地域医療の中核としての機能を有し、県内の医療を先導する立場にあります。また大学の附属病院は、臨床及び基礎の医療に関する研究の実践の場であり、研究力をもった医師、医療関係者を育成すべき義務を負っています。
狗万app足彩,狗万滚球つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)を中心に展開されている臨床研究を推進し、ワクチン開発研究や創薬研究で発展を目指す臨床研究中核病院に認定される必要があります。地域医療人材育成に関して、茨城県内9地域に一つ以上存在する地域医療教育センター、その周囲に点在する医療機関を、研究機能を持ち医師等の医療従事者を育成する機関が一体的に業務管理すれば、機能的で適切な医療を提供できますし、地域包括ケアシステム機能も併せ持つことで住まいと生活を医療が支える体制を構築できます。附属病院への期待は大きいものです。
附属学校
附属学校の重要な役割は、大学と連携しながら、学校教育機能の向上を図る研究を進め、その成果をもとに、全国及び地域における初等中等?特別支援教育並びにグローバル人材育成教育を先導すること、またインクルーシブ教育システムを構築することです。これまでの実績に奢ることなく、不断に教育システムと教育コンテンツを革新し、我が国の初等中等?特別支援教育を牽引することが求められています。特別支援に関しては、本学の研究者が現場の事情をよく理解して障害を克服するために協働することを期待しています。
第4期中期計画では、オンラインによる履修を含む先取り履修?単位認定システムを構築することとしています。附属学校教育局では、狗万app足彩,狗万滚球元年度から附属坂戸高校を拠点校として文部科学省の「WWL(ワールド?ワイド?ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」に取り組んできましたが、狗万app足彩,狗万滚球4年度からは「持続可能な国際社会を創る人材育成のためのオンライン先取り履修システムの構築」をテーマに研究開発を進めています。JV-Campusを活用し、国内外の高校生向けの先取り履修システムを構築することで、高校生の課題解決型学習への関心を喚起し、優秀な学生の大学早期卒業を可能にしようとするものです。
具体的には、本学と附属坂戸高校が開発した学習コンテンツ、本学の生物資源学類やBPGI(地球規模課題学位プログラム)等の課題解決型のコンテンツを、附属坂戸高校、附属高校、附属駒場高校、お茶の水女子大学附属高校、東京学芸大学附属国際中等教育学校など8校に提供し、将来的にはWWL?SGH連携校や海外校?東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)スクールネットワーク校にも拡大することを考えています。
昨年6月、科目等履修生制度の枠組みを活用した高大接続科目等履修生制度が承認され、関連規則改正を行いました。今年2月に履修生の募集が行われ、附属坂戸高校や桐が丘特別支援学校高等部などから生徒34名の出願がありました。今年度、科目等履修生としての受け入れが始まります。
今後は、各学類?専門学群が、附属学校に限らず、全国の高校生に、本学の学問の魅力を積極的にアピールすることを望みます。
同窓会等のネットワーク化
第4期中期目標には、「ステークホルダーに積極的に情報発信を行うとともに、双方向の対話を通じて法人経営に対する理解?支持を獲得する」としています。同窓生(附属学校を含む。以下同じ)は、重要なステークホルダーです。同窓会の存在によって、同窓生にとっては、大学の動向や各種情報の入手ができ、親睦を深めることが可能になります。在学生にとっては、同窓生への就職?キャリア相談などが可能になります。運営費交付金の「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の「大学教育改革に向けた取組の実施状況」の一つに、学群?大学院とも、「卒業生(修了者)に対する追跡調査の組織的かつ継続的な実施」、「卒業生(修了者)に対する追跡調査の結果をデータベース化し教育改善につなげる組織的な取組の実施」がありますが、教育組織にとっても、同窓生の情報を一元的に集約できる利点があります。
本学には、茗渓会や校友会、図書館情報学橘会、桐医会のほか、学類?専門学群や大学院の学位プログラム、学生団体、附属学校などの同窓会組織があります。まだ同窓会組織がない学類や大学院学位プログラムにも同窓会組織をつくるように呼びかけています。2023年10月には、世界中で活躍する卒業生?修了生をつなぐTsukuba Universal Alumni Network(TUAN)も発足しました。実際、TUANの協力を得て、昨年はベトナム、台湾、カザフスタンなどで同窓会を開催することもできました。これらの同窓会組織の自主?自律?自治を尊重しながら、在学生や保護者?PTA会、紫峰会、筑波みらいの会、学長を囲む会、名誉教授の会、筑峰会など、様々なステークホルダーを含めたネットワーク桐の葉Togetherコネクトを準備いたします。既存の同窓会組織等の代表には、昨年度より本学の情報をお知らせする「TSUKUBAからの風だより」の定期的配信を始めています。本学としては、既存の同窓会組織等の会員名簿の提出は求めませんし、それらの会員に本学から直接の発信も行いません。双方向の対話ができるように、各教育組織と同窓会との協力関係の構築をお願いしたいと思います。
卒業生?修了生とのエンゲージメントを確立するためには、入学時又は入学前から卒業後まで一貫して同じ生涯IDで本学からサービスを受けられるようにすることが重要です。生涯メールアドレスを付与しても活用されなければ意味がありません。若い世代にとって、電子メールは情報を受け取る手段としては役に立たなくなってきています。メールアドレスではない生涯IDと個人を紐づけ、卒業後も生涯IDを通じて卒業生?修了生に本学から情報発信ができ、卒業生?修了生と本学とが結び付く体制を構築してほしいと思います。
「金融と知」の連携と財務基盤の強化
国にとって、最も有効な投資は教育であり、科学技術です。国立大学にとっての基盤は運営費交付金です。これが名目的にも実質的にも減少し続ける中、これに代わる財源の充実とこれを含めて大学が持てる資産を効率的に運用する方策が必要です。
昨年8月1日、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)と包括的連携協定を締結しました。本学とSMBCグループは、「金融と知」を用いて未来を創ることを目指し、①財政基盤の強化を含む大学経営の高度化や、②新しい共同研究?事業化システムの開発、③教育?研究、ビジネスを多角的に動かす人材の育成、④スポーツの活性化と関連領域の取組強化、⑤インクルーシブ教育などの推進に取り組んでいきます。またこれらの取り組みを地域へ拡大し、スタートアップやグローバル企業等との共同研究、実証の場を提供し、スポーツを起点としたコミュニティの構築など、地域住民が生き生きと暮らすウェルビーイングなまちづくりを後押ししていきます。そのような取り組みを行いながら、大学と金融機関の連携を先導するモデルを全国にさきがけて提示していきたいと考えています。
財務基盤を確立するために、財源の多様化並びに基金の造成及び運用による自己収入の拡大を一体的に推進する体制として、昨年4月より、事業開発推進室及び財務部資金調達?運用課を事業?ファイナンス局に改組しました。事業?ファイナンス局は、一昨年12月に着任した理事(事業?ファイナンス担当)の監督下に置き、局長(CFO; Chief Financial Officer)は事業?ファイナンスに関する業務執行の責任者として外部金融業界から専門人材を招きました。大手銀行で企業年金の運用を陣頭指揮していた専門家がCFOに就任するのは、国立大学では狗万app足彩,狗万滚球が初めてです。
事業?ファイナンス局の下には、金融手法の高度化による将来に向けた大学の資産形成と運用収入の拡大をミッションとする資産運用?ファイナンス室と、事業収入及び寄附金収入等の獲得による運用原資の拡大とリレーションの強化をミッションとする事業?リレーション推進室を置き、両方の室が密に連携しながら資産の形成を行っていきます。ようやく、産官学金の協働が実体化しました。
事業?ファイナンス局には、あまたの課題を担っていただきますが、最も重要な課題は、教育への社会から投資を増やすことです。研究への投資は、研究により解決する課題が鮮明であれば、社会から理解が得られやすいところがあります。一方、教育はその成果が目に見えるまでに時間がかかるとともに、個人レベルでの個々の問題もあり、宗教的な背景や慈善活動の社会認識が諸外国とは異なる我が国では、教育への投資を呼び込むのはかなり困難な課題です。教育への投資の例としては、デジタル教育に教員が足らない状況で、産業界で働く博士の学位を持った者に教育に参画いただくことです。寄付講座はこれまでも受け入れていますし、講座をつくるまでもなく企業側のニーズに合わせたプログラムを企業側のご負担で開設することも、UiPath社の出資で始まっています。今後も、多くの企業との協働を模索してまいります。
学費の値上げについての考え方を別稿で述べています(『IDE現代の高等教育』669号、2025年4月)。要は、大学教育の受益者は、学生本人はもとより、その学生が将来支える社会であるという考え方の上に慎重な議論が必要であるということです。一方で、本学に在籍するからこそ享受できる環境やシステムに対しては施設使用料などの形で受益者に負担を求めても良いのではないかとも考えています。運営費交付金や外部資金では対応できない大学の活動(卒業生?修了生とのエンゲージメントなどを含む)については、教職員のこれらの方々への思いを寄付という形で集約すべきではないかと考えています。
さらに学生の経済支援も、給付、貸与などの一方通行ではなく、あるいはTA/TF/RAという形だけではなく、学生に大学の活動に参加いただきその対価という形で受けていただくことが重要ではないでしょうか。今年度途中から教育研究評議会に正規の学生構成員が参加する予定です。新しく創設した情報マネジメント室や人工知能科学センターの国際産学連携研究などの活動には、是非学生の皆さんの情報科学?情報工学の力が必要だと思っています。学生が様々な学内用務をこなすことができる形態の組織ができることを期待しています。
おわりに:「知」の相乗効果を求めて
本学は「学際性」、「国際性」に加えて、「固定化された社会変革」を掲げて、次の50年に向けて歩み(NEXT50)を進め始めました。
この度の所信では、たびたび、中教審の「知の総和」向上答申に触れてきました。国民一人ひとりの「知」を高め、「知の総和」をもって、ますます少子化が進む日本の将来を乗り越えていこうというものです。その上で、この所信では、冒頭で、高度成長期の国民の集団としての「知」の追求が日本の力の源泉であったという議論に触れました。
それをなし得た、人と人をつなぐための要諦は何でしょうか?それはselflessnessではないかと考えており、マハティール元首相が求められているものではないでしょうか。日本の伝統や文化には良いところがたくさんあり、selflessnessもその一つだと思います。滅私奉公を奨励するわけではありません。自己主張してはいけないというものでもありません。「利他」「愛他」といったニュアンス、すなわち自分のためだけではなく他者/社会のためを考え、他を思いやる気持ちがあるという意味と解釈しています。専制主義に欠けていて、進行中の民主主義にも欠け始めているのは、「品位」、「包容力」であり、ここで述べている「他者への配慮?敬意」です。本学の先達である嘉納治五郎先生の「自他共栄」に通じるものです。30年前の阪神大震災のときにたくさんのボランティアが被災者を支え、14年前の東日本大震災のときも被災者同士が助け合い、被災者に国民も全体で寄り添いました。昨年の能登半島地震でも、国立大学の附属病院群はDMAT等の派遣により現場を支えました。困難なときにも、弱者を優先させ、整然と列に並んで待ち続けることができる、それは日本人の長所です。各国で分断と対立が蔓延し、国際社会ではselfishな行動が大手を振っています。日本が再生し、日本が分断する国際社会のつなぎ役となるのであれば、この精神は重要な後ろ支えとなるはずです。昨年の所信で、キャンパスはなぜ必要なのか、コミュニティはどのように重要なものなのかを強調しました。狗万app足彩,狗万滚球も、構成員一人ひとりをつなぎ、団結力をもって、一人ひとりの力の総和以上の力を発揮していきたいと考えています。
本年度、悠仁親王殿下が生命環境学群生物学類に入学されます。本学の教育研究や学修環境に魅力があると考えていただけたことを大変名誉に思います。反面、根拠のない報道等が多数なされていることをきわめて遺憾に思います。悠仁親王殿下が静謐な環境の中で勉学と学園生活を楽しめるかどうか、それは狗万app足彩,狗万滚球というコミュニティの力にかかっているといっても過言ではありません。
気候変動、自然災害、戦争、格差と分断、貧困、食料?エネルギー問題、パンデミック、生物多様性への配慮など、私たちが直面する地球規模課題に学術?学芸で立ち向かうことが、国際卓越研究大学を目指す本学の使命であると考えています。本学の教育?研究によって世界に社会的なインパクトを生み出していきたいと考えています。皆様とともに、日本が、さらには世界が元気を取り戻していくための原動力となっていきたいと思います。